「この世界の片隅に」を観た素直な感想

「この世界の片隅に」

「この世界の片隅に」は 2016年に公開された長編アニメ映画。

このイメージイラストは一時期ネット上でやたらと目にしていたけど、内容はまったく知らなかった。

勝手にジブリ系ファンタジーだろうと思い込んでいたので、敢えて避けていたような気がする。べつにジブリが嫌いなわけではなくて、オタクを拗らせたおっさん的に最近のジブリはちょっとキツイという偏見があったりする。

それ以前にそもそもこの映画はジブリとは似て非なる、まったく違う切り口の作品だった。

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率直な感想「今まで避けててごめん」

正直これは日本人、いや全人類が見ておくべき作品だと思う。

というか普通にテレビ・映画好きな人なら見てる人のほうが多いと思うので、ホントに偏見は良くないとあらためて心に誓った。

内容的には第二次世界大戦中の1944年~1945年の広島が舞台となっている。日本人なら知らない人は居ない原子爆弾が投下されたあの史実。

これだけだとよくある反戦映画の括りにされてしまいがちだけど、この映画はちょっと違う。言うまでもなくベースにあるテーマはとても重い。ところが全編通して、暗さも重さもていねいに取り除かれている。これが本当にすごい。

経験がないからこそ理解が難しい

経験がないからこそ理解が難しい

俺は戦争を経験したことがない。親の世代も外れている。やはりおじいちゃんおばあちゃん世代の話になるのだけど、直接体験談を聞いたことはない。

だから学校の授業やテレビ・映画・本などの伝聞でしかないので、ことの重さは理解できるものの、今ひとつリアリティを感じられない。

戦時中を生き抜いてきた方には申し訳ないけれど、わからないものはわからない。

ところが「この世界の片隅に」を見ることで、少しだけ理解できたような気がした。そのぐらいこの映画は景色や空気感が直接意識に訴えかけてくる。

何も足さない 何も引かない

映像作品である以上、演出を切り捨てることは出来ない。演出がなければ作品として成り立たないから。じゃないとおじいちゃんの8ミリフィルムになってしまう。

だからこそ、戦争映画は視聴者に伝わりやすいように「重さ・暗さ・残虐性」を強調することで作品の本質を届けようとしている。ところが「この世界の片隅に」からは、そういった誇張された重苦しさのようなものがほとんど感じられない。

何が言いたいのかというと、この映画は最小限の演出で映えるように素材からしっかり熟慮して撮られている。そのおかげで映画っぽいクドさがないというか、戦時下の景色そのものをていねいに切り取った日常作品になっている。

それなのにおじいちゃんの8ミリフィルムになっていないのが凄い。

笑顔の重さ

辛くて暗い日常を重苦しく描くだけなら分かりやすいし、すでにそういった作品は溢れかえっている。それが悪いとは言わないけど、どこか嘘っぽいというか神話的というか、美談のように聞こえてしまう。

人は辛くて苦しいからこそ、励ましあい笑顔で過ごしたいと願う。そんな人々の直向きさがこの映画のリアリティに繋がっている。

しかも辛くて苦しい日常が、悲劇ではなく喜劇寄りのタッチで描かれている。だからこそ辛いシーンがより一層心に刺さる。これはもう究極の演出じゃないかと思う。

今までにないタイプの作品

全編通して野暮な誇張がなく、多くを語らずありのままを見せてくれる。だから妙な説教臭さもない。ある意味、新しい発明じゃないかとさえ思う。

もしまだ見ていない人がいるなら、ぜひ気張らずにリラックスして見て欲しい。

若い子はもちろんなんだけど、むしろ自分より上の世代にこそ見て欲しい、そう思える作品だった。

 

 

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