あなたは楽器、弾けますか?
人は音楽が好き。音楽は人生を豊かにしてくれる。
積極的にCDを買ったり、Spotifyのお気に入りを聴いている人はたくさん居ると思う。と同時に「自分の手で音楽を奏でてみたい」と思ってる人も、実は同じぐらい居るんじゃないかと俺は思ってる。
でも周りを見渡してみると音楽は好きでも、楽器を弾ける人は意外と少ない。もし居たら天然記念物だから大事にしてあげてほしい。俺は学生時代ですら周りにはまったく居なかった。
人生どう転ぶかわからない
楽器とはまったく無縁だった自分が、今では何の因果か音楽を仕事にしている。はじめから楽器が弾けたわけではないし、技術や知識も知らない。そんな俺がギターと出会って手懐けたまでの、ちょっとした小話を書いてみようと思う。
全てのスタートはそこだったし、この体験がなければ俺は音楽なんてやっていなかった。そういう意味では初心者にとって価値のある話じゃないかと思う。空想や作り話ではなく100%実体験だから。こんな方法でもギターをマスターできるんだと、新たな気づきになってもらえたら幸い。
「憧れ」も「厳しい現実」も思い込みでしかない
自分がはじめて自発的に楽器に触れたのはは小学生の時。後に俺に影響されて同じようにギターを買ってもらったヤツもたくさん居た。でも半年も経てばどの家に行ってもホコリをかぶっていた。
誰もがギターを手に入れた瞬間「俺もこれを弾きこなしてスーパースターになってやる!」みたいなことを考えるのだろうけど、そうは問屋がおろさない。
野球選手やサッカー選手を諦めた少年たちも同じじゃないかな。自分の中にある憧れと、立ちはだかる現実のギャップに打ちのめされるんだと思う。
じゃあ続けられた人と諦めた人の違いって何だと思う?
そもそも俺はどうしてギターを続けられたのか。
言っておくけど俺はギターを誰かから習ったことは一度もない。完全な独学。思えばいちばん茨の道を走り続けたことになる。
そもそも自分が子供だった頃は「ビデオゲーム黎明期」だったので普通の子供ならそっち行くだろうと思う(笑) というか俺はゲームも結構好きでやり込んでいたけどな・・・
運命の出会いは意外なところからやってくる
自分とギターの接点は、粗大ゴミに捨ててあったボロボロのSGシェイプのエレキギターだった。色はタバコサンバーストでボディにはレタリングで「KUNINORI」と書かれてあった。パッと見、お婆ちゃんのタンスやコタツみたいな風合いで、楽器と気づくには少し時間がかかった。
それを見つけた瞬間「これは運命の出会い!」と思ったかどうかはしらないけど、部屋にギターがある生活が始まった。クニノリありがとう。
ギターを入手したものの、俺の家系には楽器演奏なんて高尚な趣味を持つ人間はいない。当然、飾りになるしかないのである。
ちぎれたストラップが付いていたけど使えないので捨てた。代わりに荷造りひもを適当に結んで、肩からぶら下げてみた。細い紐は容赦なく肩に食い込む。痛い。
ギターは弾けないけどストラップの重要性は理解した。ちなみにこの段階で弦はまだ張られていない。
粗大ゴミは宝の山
ギターとは関係ないけど、俺はそもそも音楽が好きだったのでラジオから録音したカセットテープを数百本レベルで所有していた。頭おかしい(笑)
押し入れを開けると自分で作ったラックに、ビッシリとケースの背表紙が並んでいた。ちょっとしたCDショップ並み。
そんなカセットテープの入手法だけど、あの当時のカセットテープは粗大ゴミに捨てられる代名詞みたいなもの。たくさん捨てられていた。もちろん頂く()
なぜそんなに粗大ゴミに目が行くのかと言うと、俺の家の前には小学校があってその一角にゴミステーションがあった。バブル崩壊後の世代なので、おもしろいものが粗大ゴミにはたくさん捨てられていた。いま思えばあれは宝の山だったに違いない。
CDショップで本を買う
そんな自分がギターを飾りではなく楽器として認識したのは、CDショップの書籍コーナーでギターの教則本を見つけたときだった。タイトルはロックギター入門なんちゃら・・・覚えていない。パラパラめくってみると、よくわからないがイケそうな気がしてきた(何が)
音楽雑誌が2~3冊買えそうなお値段だったけど、ソノシートが付いてお買い得感があったので小遣いをはたいて買ってしまった。
ソノシートとは、ペラっペラの薄いセロファンみたいな透明のレコード。当時は雑誌の付録で付いてる事が多かった。
早速ソノシートを友人の家のレコードプレーヤーでテープにダビングしてもらい、本に目を通してみる。
課題曲はいくつか入ってたと思うけど、今でも微かに覚えてるのは1曲目の「セット・ミー・フリー」という曲。教則本オリジナル。何やねんそれ というツッコミはご容赦願いたい。
なぜ覚えてるのかと言うと、そのレコードの冒頭は「課題曲、セット・ミー・フリー!」というオッサンのナレーションから曲が始まる構成だった。スティックの「カッ!カッ!カッ!カッ!」というカウントと共に、ナウなヤングのロック・インストナンバーが始まったのを覚えている。
この本のいちばんの収穫は、ギターには弦が6本必要だということ。
再びCDショップに走る。
未知との遭遇
行きつけのCDショップには、ギターの弦が売られていることは知っていた。というか昔のCDショップは普通に楽器の消耗品を置いていた気がする。時代的にCDは売られていたけどまだレコードショップだったな。
レジの奥に「009」とか「042」とか大きく書かれたパッケージがケースに収められていた。あれがギター弦だというのは教えてもらったわけではないけどなぜか知っていた。
とりあえず1セット買った。ヤマハのスーパーライトゲージは確か1弦だけおまけで2本入ってた。懐かしい。弦の張り方なんか分かるわけないので、とりあえず穴を通してペグをグルグル回して最後には縛った()
案の定、折れたり曲がったりでボロボロになってしまったが、とりあえずギターっぽい音がする様にはなった。ちなみにこのギターには「板バネアーム」が付いていたのでチューニングが安定しない。当然そんなこと知るわけがない。
テープから聞こえる5弦開放の音に、同じく自分のギターの5弦開放を合わせる。教科書どおりのチューニングをセオリー通りにやってみる。チューナーなんか持ってないからこの方法しか出来ない。
そして曲の頭、4小節ぐらいまでの単音リードフレーズを教科書どおりに3日間ぐらい、ひたすら練習した気がする。音の数は5つぐらい。運指なんか適当。
それはもうひどい演奏だったと思う。赤ん坊のよちよち歩きのごとく、右手で左手の指をつまんで弦を押さえる。利き手と逆側の、しかも指だけを動かすなんて普通の人はやらない。
それでも「自分はギターを弾いてるんだ」という実感がふつふつと沸いてきて、学校で無理やり習わされるリコーダーやピアニカとはまったく違うテンションがこみ上げてきたことは覚えてる。
入口を間違えた?
おそらく楽器を弾かない一般人の認識からするとギターは「コードを覚えないといけない」ってところがハードルになるんだと思う。
ところが俺は何も知らずに「ロックギター」の教則本から入ってしまったので、コードではなく単音のリードフレーズから練習を始めてしまった。
振り返ればこれが意外と正解だったと思う。
挫折した(しってた)
テープから聞こえるお手本のエレキ音と、自分のギターのペケペケ音があまりにもかけ離れすぎて、俺は才能がないからこんな情けない音しか出ないんだろうとか本気で思っていた。かわいいぞ俺。
そこからは、分からないながらも必死に教科書のマネをしようとしていたのだけれど、リードテクニックの教則本だったのですぐにチョーキングの練習が出てきたと思う。そこで挫折する。
「指で弦を押し上げる」とかいう謎ワードが出てきてさっぱり分からなかった。今思えばこのギターはおもちゃ品質だったので、フレットが低くてチョーキングなんか無理だったはず。
そんなこんなで「これは無理!」と諦めて、俺は普通の学生に戻り、平凡な学園生活を取り戻したのであった。ちなみにこの話に可愛いヒロインは登場しない。
日本人ならJPOPでしょ
ギターを諦めてしばらく経ったある日、それは突然やってきた。
雑誌をめくっていると広告に「やさしいギター入門」なるキャッチコピーがデカデカと書かれた通信教育を発見した。
楽器に通信教育があるという事もビックリだったが、俺の心を引いたのはその「課題曲」だった。曲目を見ると、誰もが知る有名なJPOP曲が羅列されていた。
知らないオッサンが演奏するセット・ミー・フリーしか知らない俺はおったまげた。これはもう「やるっきゃナイト!」 ・・・すまない忘れてくれ。
早速オカンを口説いて申し込んだ。
薄い本との出会い
申し込んでから1~2週間経って届いた教材は最初の1ヶ月分。ペラペラの薄い本とカセットテープ1本だった。文字通り、ホチキスで止めた手作り感たっぷりの冊子だった。思えば俺はこの頃からオタクと縁があった(違)
さっそく付属のテープを聞いてみる。流れてきたのは知ってる曲だったものの、コピーバンドの演奏だった。昔はこういったコピー商品がとても多かった。
アニメソングのカセットテープを買ってみたら中身はそっくりさんが歌う劣化コピーだったり、ヒットソングメドレーと書かれたテープを買ってみると中身はコピーバンドの演奏するインストゥルメンタルだったり。
今でこそお隣さんをコピー大国などと罵っているが、日本だって成長期の頃はコピー商品だらけだったと思う。当時の「ジャ◯プ」や「マ◯ジン」などの少年雑誌には、そんな広告がたくさんあった。〇〇風の腕時計とか、✕✕っぽいアクセサリーとか、塗るだけで小麦色になって女子にモテモテになる謎のクリームとか、ムキムキマッチョになれる謎の器具とか。
また話が逸れてしまった・・・
バンドブームの副産物
とりあえずそんなテープが付いてきたんだけど、それでもちゃんと褒められる部分もあった。それはギターの音がしっかりクローズアップされていて、非常に聞き取りやすいのだ。本家のオリジナル音源はプロがバランスよくミックスしているので、ギターだけを聞きたいと思ってもなかなか正確に聞き取ることは難しい。
その点このテープは、ギターだけが聞こえる様にあえてミックスバランスを崩してある。お手本としての価値を十二分に発揮してくれている。そう、「あえて崩す」は時として絶大な効果を生む。
しかも序盤の選曲はカンタンな曲しかない。「5度コード」だけで弾けるパンクっぽい曲が並んでいた。当時はバンドブーム全盛期で、頭が悪くても目立っていれば売れてた時代。
どこのバンドとは言わないが、ああいった曲が存在するおかげで当時のキッズ達は楽器へのハードルが相当低かったと思う。「これなら俺でも弾ける」そう思ってみんな始めるんだろう。
5度コードが自分を救った
ここで「5度コード」を簡単に説明すると、構成音が2つしかないコード。3度を抜いた、1と5度だけのシンプルなコード。難しいことは考えなくていい。使う指は2本だけ。しかも押さえ方はひとつマスターすれば、横にスライドするだけで全ての音程をカバーできる。
これが自分にとって、ギターのハードルを大きく下げた衝撃的な事件だった。指2本使うだけで、しかもひとつの型を覚えれば11種に対応できるなんて魔法のコードじゃないか!
しかもこの教則本のニクいところが、初月の3曲は5度コードだけで通して弾けるように構成されていた。ということは1曲弾けたならば、他の2曲を弾くテクニックはすでにマスターしていることになる。
物事は「0」から「1」にすることはとてつもなく難しい。だけど「1」が出来てしまえば、そこから先は加速度的に伸びていく。そういうものである。
不思議なもので1曲通して弾けるようになると、なんでも弾けるような気がしてくる。気がするだけなんだけど。
これが自分のギターの出発点かな。
2~3曲も弾けるようになれば、ギターへのモチベーションはそう簡単には折れなくなる。弾けることが楽しくて、同じ曲を何回も何回もリピートしてる。それでいい。同じ曲を繰り返すうちに手の筋肉が鍛えられて力も付くし、指を動かすハードルがどんどん下がる。ここさえ超えられたら誰でも成長できるはず。
今でもあの通信講座には感謝している。そしてクニノリありがとう。
他人と同じじゃなくていい
自分の場合、入り口は変なところから入ったのかもしれないが、結果的にそれが功を奏した。
単音のリードギターから始めてしまったのも、5度コードだけで弾けた気になってたのも、実はモチベーションを維持する良いキッカケになってる。
最初からすべての指をフルに使う必要はなくて、とりあえず指1本2本で簡単なメロディを弾く程度から始めている。
セオリーや基本はもちろん大切だけど、そんなものは上達してから気づいた時に学べばいい。初心者に必要なのは、自分の気持ちをアゲること。続かなければ意味がない。
人間は気分に左右される弱い生き物
そんな俺でも、1年ほどでヴァン・ヘイレンのリフぐらいなら弾けるようになった。その後は完全にロックの王道を辿ったので、ハードロックやメタルをコピーしまくって、バンド活動への道を歩んだ。
そんな俺が声を大にして言いたいことは、とにかくデタラメでいいから「弾いた気分になれ」
モチベーションは何よりも強力な原動力となる事をギターが教えてくれた。それは今でも人生に大きく役立っている。音楽以外のすべてにもだ。
ロックギター vs フォークギター
最初にフォークギターから入っていたら、俺はギターを辞めていたかもしれない。はじめから6本の弦を全部使うなんて初心者にはとてつもなく難しい。
だから俺はギター初心者がよく陥ると言われる「Fの壁」ってのを知らない。ロックだから2本の指だけですべてのコードを弾き倒してたし、それがある程度サマになってから正しいコードの勉強を始めた。するとFのバレーコードを押さえる頃には、なんとなく指の力も付いていたし指を動かすコツもそれなりに掴んでいた。
だからギターを挫折した人がこれを読んでいるなら、俺は言いたい。フォークギターは難易度が高い。
俺でさえ今いきなり弾けと言われたら、最近サボってるからちょっと練習しないと弾けない。でもロックならハッタリが効く。
あの有名なディープパープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフなんか指1本で弾けるんだぞ。とりあえずエレキギターを買って5度コードひとつだけ、まずは覚えよう。ロックは簡単でカッコイイ。
最後に
ここで記事のタイトルに補足を入れさせてほしい。「簡単」とか「もう一つの世界線」とか書いてしまったが、結局俺が辿ってきた道はロックギター入門の王道だったのだ。そんなルートがあることを知らずに通ってきてしまっただけ。むしろロックに目覚めてギターを始めた人ならこのルートが正解になる。
実はギターにも色んなジャンルがあって、奏法も厳密には違ってくる。アナタが挫折したギターは自分がやりたかったジャンルだったのだろうか?
ロックが好きなのにフォークギターのFでつまづいたりしていないか?
好きじゃないとモチベーションは続かない。
現実はどうあれ「弾けた気になる」が大事。
それが~いちばんだいじ~♪
クニノリありがとう。