『曲ができた!でもミックスを詰めていくほどに迫力がなくなっていく・・・どんどんパンチが無くなっていく・・・何を言ってるかわからねーと思うが俺も何を言ってるのかよくわからねぇ』
ミキシングにおける低音域のまとめ方はエンジニアの技量や個性が一番見え隠れするところ。その曲を活かすも殺すも低音次第というほど大切な要素なんだ。
「出音さえカッコよければ手段は何だっていい」と言うヒトもいるけど、ノリと勢いでバシッと決めちゃうヒトはただの天才なので、我々凡人・・・いや猫でも分かるように考え方・アプローチを紐解いていこうと思う。
ローカットの意義
低域の話で必ず出てくるのがローカット(ハイパス)。
こんなマニアックなブログを見に来てくれる読者さんなら「んなもん知ってるわ!もっと面白い事書けやゴルァ」と怒られそうだがチョット待ってほすぃ。
最近SNS等で見かけるようになった「ローカットだめ!ゼッタイ!」という意見。真偽の程は置いておいて、ヒトは何のために「ローカット」するのか?その意義についてじっくり考え直してみよう。
意識するだけでクオリティに差が出る「濁り(Muddy)」
ローカットとは文字通り不要な低域を削って、音をスッキリ・クリアにさせるテクニック。これを行わずに放置すると、楽曲全体が濁ったようにモゴモゴして音が抜けてこなくなる。歌もギターも何もかもがイモっぽくなって聞き取りにくくなる。
おまけに副作用で音量(音圧)を突っ込みにくくなるので、他の曲に比べて音がショボく(小さく)聴こえてしまう。音圧に関してはまた別の記事を書くのでここでは置いとく。
もちろん削るからにはさじ加減が重要で、カットしすぎると音の芯がなくなっていく。聴感上は大きく聞かせることができるのだけれど、音の芯がなくなって迫力も削れていく。やりすぎるとカリカリしたのっぺりサウンドになってしまう。不思議とJPOPはこの傾向が多い。
ヒトの耳に聞こえる音・聞こえない音
人類が音として知覚できる「可聴周波数帯域」は、下はだいたい30Hzから、上は17,000Hzとも20,000Hzとも言われている。
もちろん俺は猫なのでさらに幅広いレンジの音を聞いている。キミたちは気づいていないだろうが我々は深夜に宇宙と交信して、地球侵略から平和をまもっている。しらんけど。
少しは感謝してほしい
敵を知るにはまず己から
キックの低音は音色にもよるけど、だいたい50Hz~150Hz辺りに集中している。
4弦ベースの最低音(4弦開放E)は基音が41.2Hz。そこから300Hz辺りまで、楽曲の低域をモッチリと支えている。
当然キックもベースも低音だけが鳴ってるわけではない。ミッド~ハイまできっちり倍音が鳴っているのだから、ミックスする上では全体で考えないといけない。
そのあたりの実践的なTipsは別の記事で紹介するとして、ここでは低域だけに絞って話を続ける。
低音は溜まる
音域だけを見ればキックもベースも非常に近いところで鳴っている。というか被りまくっている。
おまけにベースには音階があるので、最低音は常に移動している。
そんな状況でお互い好き勝手に「こっちの方を聴いてぇええ!」と主張しあってると、収拾がつかない糞トラックが出来上がってしまう。
キックもベースもデカイほどカッコイイし気持ちいいのだけど、それは整理整頓、棲み分けが出来てるからこそイケてるのであって、団子になってしまった低音はもはや地鳴りか雑音でしかない。うっせぇわ。
低音の重心を見極める
という事でキックとベース、どっちがローエンドを陣取るか。
どちらかに席を空けてもらって居場所を獲得するのだ。
満員電車の椅子取り合戦だね。
もちろんローカットは両者ともに入れる。陣取った低い側も30Hz以下は振動に近いので普通のスピーカーでは再生できない。というかコーンの要らん動きを誘発するので、分かってるエンジニアなら切ってるはず。俺は猫だからしらんけど。
低音の主役はすでに決まっている
「キックとベース、どっちを下に置けばええのん?」という疑問もあちこちでよく聞くのだけど、それはアレンジの段階ですでに決まってるのではないか?
ハウスだとか4つ打ちだとか所謂キックが響いてナンボの楽曲なら迷わずキックが下。
おまえが居ないと始まらない。
SubBassが入っていてもキックが主役。そこは変わらない。そのためにサイドチェインがある。ダブステップなんかは範囲が広すぎて微妙なところではあるんだけどやっぱりキックが主役。
EDMに類するジャンルはキックもベースもお互い最大限に主張しあっていて、これはサイドチェインで棲み分けさせていると考えるべき。
あと、Hiphopというジャンルがあってな・・・ 日本ではにわかに信じられないと思うけど、実はこっちの方が時代の最先端の音を鳴らしてると俺は思ってる。
音楽的なテクノロジーが発明されるのはいつもHiphopからと言っても過言ではないぐらい、激しい移り変わりの歴史がある。語るとキリがないのでここでは端折るけれども。
今の流行りはローエンドにベースが居座ってる。めちゃ低いところで「ブーン↓ ブーン↓ トゥテ↑ブーン↓」って感じで唸る所謂808ってやつ。これは正確にはTrapってジャンルなんだけど。
もちろんキックも鳴ってるんだけどローは結構カットされてる場合が多い。あくまでもベースのアタックとしての引き立て役。
余談だけどTrapで鳴ってるベースはTR-808のキック音色を伸ばして叩いて作られた音なので、元を辿ればキックなんだな・・・
EQ(イコライザー)を挿してみよう
さて、重心をどっちに据えるか決まったところでEQを挿してローカットするのだけれども。
どちらかと言うとキックを下に据えてベースをカットする曲が多いだろうし、何気に難しいのはこちらだと思うので解説する。
というのも、前述した通りベースには音程があるので基音は上下に動く。ということはカット周波数を定めたところで、音程が下がるほど影響を受けるが、上がっていくほどにカットポイントから離れて影響を受けにくくなる。
ベースのローカットを失敗している一例として見かけるのがこれ。カットするポイントの見極めが甘く(削りすぎ)、音程が上がった時に急にベースが大きく聞こえる。
ベースはハーモニーのルートを受け持つ大切な役割
200~300Hzあたりの濁りを取る際も気をつけないと、極端なカーブでEQしてしまうとフレーズによって音が出たり引っ込んだりする。ロー ~ ミッドをEQする場合はなるべく緩やかなカーブを選ぼう。
苦肉の策としてコンプをハードに掛けて粒を揃える方法もあるけれど、削りすぎたものが返ってくるワケではないので気をつけよう。
低音は楽曲の土台になる部分なので出たり引っ込んだりしてしまうと、例えばVerseでは迫力あるのにサビに入った途端サウンドが軽くなる・・・みたいな事が起きてしまう。気をつけよう。
低域のミキシングはローカットだけではなく、他にもたくさんのテクニックや考え方があるのでとても1記事では紹介しきれない。続きはまた今度。
まあ猫だからしらないにゃ