日本の景気がまだ元気だった頃(80~90年代)の音楽雑誌を読んでいると、売れっ子ミュージシャンたちが挙ってこんな事を言っていた。
- 「海外でレコーディングすると明らかに音が違う!」
- 「L.A.は空気が乾いてるからドラムの録り音が明るくカラッとする」
- 「機材の電圧が高くて電気楽器にパンチが出る」
- 「N.Y.でミックスするとクリアでガッツな音になる」 etc…
なかなかおもしろいよね。実際のところどうなの?
レコードに収録されるのは空気ではなく「音」
身も蓋もない話をしてしまうと、レコード(CD)の音を明るくするのも暗くするのも迫力を加えるのも、ミキシングやマスタリングという工程に依るところが大きい。
もちろん使ってる楽器や録音の質もそれなりに重要なんだけど、それらは耳に届く時点でいくつかの工程を経て加工された「製品」であることは意識した方がいい。
良い録音はさらに良く、もし酷い録音であってもエンジニアは素材を活かすべくあらゆる手段を講じて磨き上げる。
レコードにはわずかな情報しか詰められない
目の前でスプーンを叩けば空気の振動が鼓膜を揺らし、脳がスプーンと認識する。
もし何もない部屋でスピーカーからスプーンの音が聞こえたとしても、過去の経験と照らし合わせて「たぶんスプーンの音だ」と知覚してるに過ぎないんだな。実際そこにスプーンは無いんだもの。
テレビにご贔屓のアイドルが映っていても、裏を覗いたところで配線しか見えない。
まるでアーティストが目の前で演奏しているかのようにリアルに感じる音像、艷やかな高域、大地を揺らす低音。それらは「臨場感を演出する処理」を意図的に施すからこそ、聞き手はリアルに感じ取ることができる。
逆に、録音された素材をいっさいの加工無しで音源化したところで、製品としてはチープで聴けたものではない。音はマイクを通る時点ですでにフィルターされている。結構な情報を取りこぼしていると思っていい。スピーカーも同様で、どんな高級機であれ自然界の空気振動を完璧に再現することは無理なんだ。
良い音がするレコードとは、限られたレンジの中で絶妙にバランスされた、非常に限られた情報の塊とも言える。演者を目の前にした時に感じる圧倒的な情報量とは比べるべくもない。
これはアナログでもデジタルでもハイレゾでも本質的には変わらない。マイクを通ると音は変わってしまうのだ。
つまり言いたいことは、エンジニアのさじ加減でリアルにもローファイにもエモーショナルにもパワフルにもコントロールできてしまう。今となっては当たり前の事で議論にすら上がる事もなくなったけどね。
サブスク配信でジャンルや国境がなくなった
皆さんは普段、どのソースで音楽を聞いているのだろう?
とくに贔屓のアーティストでもなければCDなんて買わなくなったかもしれない。Twitterのタイムラインを眺めていればSpotifyやYouTubeのリンクが貼られている。クリックすればシームレスにリスニング体験ができる時代。
星野源もBTSも Billie EilishやTravis Scottも、プレイリストに並べて聴けちゃう。
聴けちゃう。
だからこそ気になる。なんか違う。
興味のない人からすれば本当にどうでもいいことなんだけど・・・
気軽に聴けるようになって余計に気になるようになったのも事実。
レコーディング機材の違い?
現代では使ってる機材に大きな差はない。情報にラグや壁がないので「魔法の機材」みたいなものも「ブラックボックス」もない。
エンジニア個人の「マル秘テク」みたいなものはあるだろうけど、それが国内と海外の音の違いに直結するとは思わない。
パソコンひとつで曲づくりからマスター製作まで、一度も外に出すことなく完結してしまう、文字通りの「InBox」レコーディングだってある。そこでは最早プロ・アマの壁すらない。使うのはどこにでもある普通のmacやWindowsだ。それでもやっぱり海外の音は違う。
決定的なレンジ感の違い
「御託はいいから何がちがうのさ?」
低域の出方がまるっと違う。ローエンドがもっちりしててボインボインしてる。(表現)
対して高域もすごくキレイに出てる。中高域ではなく、ハイエンド。トップエンド。
ローとハイが出てるんならドンシャリだろって言われるとそうではない。ふくよかな中域。
要は下から上までキレイにバランス良く鳴ってる。奴らの音はレンジが広い。大陸を感じる。
JPOPの特徴
対する日本はというと、キック・ベースが大地から聴こえてこない。Subの部分がまるっと落ちてるイメージ。ローエンドではなくてローミッドがブンブン言ってるイメージ。
それに伴って中域に情報が集中しがち。さらにバランスする形で6~8khzあたりが高域のピークになっててハイエンドのシルキー感が薄い。スペアナで見るとカマボコ型の様な周波数特性。
あと、最近はマシになってきたけどボーカルが大きい。単純に音量がデカイ。声が目の前に張り付いてる。キツいコンプ感。カラオケ文化は関係ないと思うけど、2MIXのオケにボーカルだけ別に載っけました的なミックスになりがち。
そこから音量を引き上げようとするもんだからボーカルのコンプ感がすごく出るよね
もちろんJPOPのすべてがそうではなくて、最近はイイ音鳴らしてる曲も多い。でも全体的な傾向はまだ変わってないかなと思う。住んでる場所が違えば食ってるものも違うし、言葉が違えば文化も違う。音楽を聴く環境も違うだろうし、そりゃ出てくる音が違っても仕方ないのはあるかもね。
非英語圏の日本人にとって、訓練なしで「L」と「R」の発音の違いを認識するのは難しい。それと同じで低音が鳴っていなくとも違和感を感じないのであれば、それはそれで仕方ないのかなとも思う。良くも悪くもそういう土壌から生まれたものがJPOPなんだろうな。
型にはまるな常識にとらわれるな
海外のエンジニアは機材の使い方もぶっ飛んでる。得てして奴らは突拍子もない事をやる。あえて用途が違う機器を通してみたり、馬鹿みたいなパラメーターを試したりする・・・1176のレシオボタンとか「ぜんぶ押しちゃえー!」ってなる?
「オッケー、スネアにパンチが出た!グッジョブ!」 やっぱり大陸を感じる・・・。
まとめ
音楽のどこを聞いてるのかだったり、言葉の違いからくるリズムの違いもあるから、どうしても通じ得ない壁はあるんだろうと思う。
欧米ではビートに重きを置く。日本人は言葉に重きを置く。向いてる方向がそもそも違うんだな。
その点、KPOPは上手いこと乗っかったなーと思う。言葉にしても、文法は日本語に近いのかもしれないけど音が英語寄りなんだよね。言葉が載りやすい。最近ちょっと質が落ちてきた気がするけどまだまだいけるだろう。
そろそろ締めたいんだけど、なかなか纏まらない・・・
今回はここまで!